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考古学・歴史学、趣味の色々な雑文


by nara-archaeol

川瀬一馬先生の大著「わが国における書籍蒐蔵の歴史(日本における書籍蒐蔵の歴史)」のこと

奈良県にとって川瀬一馬、という名前は特別の感慨ある名前である。

吉野にある、阪本竜門文庫の文庫長であり、ある種の特殊図書館の蔵書構成、目録、管理、など、貴重書図書館運営の手本を築かれたのであった。

ただ並みの図書館員には大変敷居が高く、そこらの古典籍に通じていないような図書館司書には見学を許さなかった。(国文学研究資料館や東西の「漢籍担当職員研修」を受けているのは最低基準であったと思う。)

私は川瀬一馬氏に数回講習のようなものを受けたことがあった。

広い意味では弟子ということになろうか。

で、この間書庫をあさっていたら、大東急記念文庫の紀要、「かがみ」が少し出てきたので、見てみたら、特別号と、特別号第30号があり、その二冊は、川瀬一馬氏の「わが国における書籍蒐蔵の歴史」前篇と後篇であった。

川瀬一馬先生の大著「わが国における書籍蒐蔵の歴史(日本における書籍蒐蔵の歴史)」のこと_e0216444_00573142.jpg

そのあとがきを見てみると、これを元に単著としてまとめたい、ということが書かれていたので、この後がどうなったのか、知りたくなり、早速大東急記念文庫へ問い合わせてみたら、ぺりかん社から「日本における書籍蒐蔵の歴史」という書名で刊行されたというので、入手してみた。

という訳で、この3冊を目次主体に紹介する。

1)かがみ 特別号 わが国における書籍蒐蔵の歴史(前篇) 1987.7.10 109p

はじめに
一 金沢文庫の和漢典籍蒐集の意義
二 室町初期以来の金沢文庫散逸
三 関白秀次の古筆(典籍)蒐集と金沢文庫
四 徳川家康の和漢書蒐集(駿河御文庫)附.徳川義直(尾張敬公)の集書
五 水戸光圀(義公)と前田綱紀(松雲公)の集書
六 脇坂安元と松平忠房の集書
七 江戸初・中期の蔵書家
八 江戸時代後半個人の蔵書(藤原貞幹、屋代弘賢、狩谷棭斎、伴信友ほか)
九 江戸時代後半諸侯の蔵書
後記

であり、個人的には八の部分が面白く、ことに好古家たちの蔵書ということで、歴史学・考古学に興味ある方には面白いと思う。

2)かがみ 特別号 第30号 わが国における書籍蒐蔵の歴史(後篇) 1992.3.10 115p

はじめに
一 明治時代前半の蒐書(鵜飼徹定、田中勘兵衛、アーネスト・サトウ、楊守敬、田中光顕、黒川真頼、山中笑、静嘉堂文庫、ほか)
二 明治三十年頃の学儒・好事家の蒐集(小杉温邨、大野豊太、島田重礼・幹父子、内藤虎次郎(湖南)、狩野亨吉、ほか)
三 西荘文庫旧蔵善本附記
編輯後記

私にとっては、山中笑、楊守敬、黒川真頼、小杉温邨、内藤湖南、あたりの記事は大変面白かった。

川瀬一馬先生の大著「わが国における書籍蒐蔵の歴史(日本における書籍蒐蔵の歴史)」のこと_e0216444_00573512.jpg

3)日本における書籍蒐蔵の歴史 ぺりかん社 1999.2.15 263p+11p

第一部
はじめに
1 金沢文庫の和漢典籍蒐集
2 金沢文庫散佚
3 関白秀次の典籍蒐集と金沢文庫
4 徳川家康の蒐書(駿河御文庫)付.徳川義直(尾張敬公)の蒐書
5 水戸光圀と前田綱紀の蒐書
6 脇坂安元と松平忠房の蒐書
7 江戸初・中期の蔵書家
8 江戸時代後半個人の蔵書(藤原貞幹、屋代弘賢、狩谷棭斎、伴信友、賀茂真淵ほか)
9 江戸時代後半諸侯の蔵書

第二部
1 旧安田文庫のことなど
2 明治時代前半の蒐書(鵜飼徹定、田中勘兵衛、アーネスト・サトウ、楊守敬、田中光顕、黒川真頼、山中笑ほか)
3 明治三十年頃の学儒・好事家の蒐書(小杉温邨、大野豊太、島田重礼・翰父子、内藤湖南、狩野亨吉ほか)

付録
1 徳富蘇峰旧蔵『成簣堂文庫目録』の序文
2 西荘文庫旧蔵善本附記
3 安田文庫購入西荘善本評価書目
4 高木文庫譲受けの分

掲載写真一覧
わが国における書籍蒐蔵の歴史*講義概要
あとがき(岡崎久司)
索引(人名、文庫・書店名、文献名)

1)2)を元に特に安田文庫の件を中心に増補されている。

これは昭和62年3月と昭和63年3月に一講座二時間、合計四講座八時間行われた講義が元になっている。振り返って思い返してみると、この講義には出たかったが出れなかったので、かがみの特別号として刊行された時には神田神保町の一誠堂書店さんを煩わせて入手していただいたものだった。

この講義では遂に触れることができなかった人物が三名いる。富岡鐵斎、和田雲村、中山正善、である。これがこの本の瑕疵であり、川瀬一馬氏も心残りであったろうと思うが、こうした点を除いても、図書学、書誌学、そして図書館司書に有用な本であるという私の評価には揺るぎはなく、そうした学に興味のある方は、比較的入手可能な、ぺりかん社版を入手して読んでいただきたいと思うし、川瀬一馬氏(1906年1月25日 - 1999年2月1日)に対して最大の礼であると思う。

川瀬氏の著作には、「古活字版の研究」「足利学校の研究」「日本書誌学の研究」「古辞書の研究」「五山版の研究」などの研究書があり、文庫という形態で、「日本文化史」(講談社学術文庫)、「随筆 柚子の木」「随筆 蝸牛」(中公文庫)もある。

一読されることをお勧めする。

by nara-archaeol | 2018-04-29 00:17 | 考古学関係(日本史含む)